写真界の暗黒超新星が世に放つ、夜闇の世界。


Interview and text by Tomo Kosuga
[初出掲載:VICE.com日本版 2014年2月]

黒い布が無造作に継ぎ接ぎされた、この本。若き写真家 山谷佑介による自主出版写真集『Tsugi no yoru e』(次の夜へ)という。カバーは知人に頼み込んで1冊ずつ布を縫い付けたという。反骨精神丸出しの写真集は、まるで鋭く尖ったパンクスのヘアースタイルのようでもある。実際、山谷は写真家となる前、パンクロックに傾倒したクチだ。

開くと広がる、夜闇(やあん)の世界。クシで髪をかき上げるパンクスの後ろ姿、夜の海に飛び込む青年、布団に横たわる裸の男女、市松模様で綾取られたライブハウスの床を削るかのように踏み込むロカビリーやパンクスたちの足……。明けることのない闇の魅力に取り憑かれた連中が、匿名性の高い切り口によって収まる。

かつてはバンドの日々に明け暮れていたという山谷の『Tsugi no yoru e』を一言で言い表すなら「不浄」か。総天然色ならぬ〝総ケガレ色〟の仕上がりが美しく装飾されることを拒む態度のようで、むしろ生の鼓動を感じさせ、だから生々しい。 あるいはかつての日本写真の黄金期、写真史70年代をこの現代に見ているようでもある。

これはきっと言い過ぎなのだろうが、本書を手に取った質感や佇まい、なにより本としての存在感が、かの『provoke』のそれらに近く感じとれたのはここだけの話。

そんなこんなで、山谷が世に送り出す暗黒の写真集『Tsugi no yoru e』。限定150部が販売されるやいなや、即完売。ヤマアラシのジレンマを実践することもなく、鋭く尖ったまま街から消え去っていった。

とにかく鳴り物入りで登場した山谷の作品を直に見れる機会がこれから続く。今週からYUKA TSURUNO GALLERYで同作品の写真展がスタート。そして3月中旬には新作『ground (dance)』を恵比寿・POST (limArt)で開催する。

強烈なデビューを飾った1作目にして山谷の方向性は固まったかと思いきや、新作は異なる角度から同テーマを切り開いた様子。山谷の快進撃はすでに期待されたものだ。

大雪が降り止まないバレンタインデーの2月14日、なにやら巨大なものを傘にしながら、山谷がVICEオフィスまでやってきた……。

わざわざ大雪のなか笑顔でやってきたこの男、山谷佑介は雪国 新潟出身だ

——雪の日だってのに、なに持ってきたの?

山谷佑介:コレ、僕の新作です。『ground (dance)』っていうタイトルで。

——へー、川田喜久治の『地図』みたい。これって写真なの?

クラブハウスの床を撮った写真のプリントを、実際にクラブハウスに敷いて。プリントの上を人が踊るから、表面は靴底で削られる。インクはこぼれたアルコールで溶けて、ぐにゃぐにゃになるんです。それを額装したものです。

クラブハウスって暗室みたいなモンなんですよ。暗室が暗闇の中で印画紙に塩化銀が反応して黒くなるなら、こっちは逆に白へと近づくっていう。

新作『ground (dance)』を手に持って

——『Tsugi no yoru e』も音楽の色が強かったし、ルーツは音楽系?

写真をやる前、ずっとバンドやってたんです。東京で「FINAL」っていうハードコアバンド。そのあと、大阪で「DEFECTOR」のボーカルをやってた岡本ジョージが東京に上京してきたので、ジョージと組んで「B.J.R.K.」ってバンドを始めた。

——……えっ、ビョーク?

いや、「ビジュアルケー」って読みます。冗談で「ビジュアル系」とかけてて。デビッド・ボウイやT・レックス、ピンクフロイドの初期とかって中性的なイメージだったじゃないですか。そういうのをやりたくて。ビジュアル系みたいに化粧をしてたんです。

山谷がかつてやっていたバンド「B.J.R.K.」(ビジュアルケー)。ドラム担当の山谷は後列の白塗り男

——あっ、ビジュアルケーって読むのね……。そこからどう写真の道に?

ジョージが写真家の名越啓介さんと知り合いで。或る日、名越さんにバンドメンバーを撮ってもらうことになって。そのとき名越さんの写真を知って、こんな世界があるんだと。その後、写真をやりたくなった。バンドも辞めて。それから紆余曲折を経て、写真の修行に出ようと思って。軍艦島に行きたかったから、ぷらっと長崎まで行くことにしたんです。

「ジョージと女」

——そこで東松照明さんに出会ったと。

それはまだ言っちゃダメ(笑)。よく知ってますね。まず「photo cafe HIKOMA」っていう喫茶店を見つけて。日本で初めて写真屋を始めた上野彦馬の名前もついているだけに、面白そうじゃないですか。それでたまたま立ち寄って。そしたら2階には暗室もあるし、気に入ったからマスターに「オレ、ここに来たいッス」と言ったら、「部屋あるからいつでもどうぞ」と返事が。

——あら、マスターいい人。

それから1年弱、住み込みました。で、長崎と沖縄を東松照明さんが行き来していると聞いて、写真を見てもらおうと思ったんです。

東松さんから言われたことはひとつ。毎週500枚を撮ってこいと。そうして撮ってきた写真を、彼は全て隈なくチェックする。それで強いだの、弱いだの言われるんですけど、僕が選ばなかったような1枚をパッと引っ張るんですね。そういうやりとりを経て、次第にストレートな写真を撮りたくなっていった。

——東松さんに見てもらえるなんて貴重な! で、『Tsugi no yoru e』の舞台になった大阪にはどういうきっかけで?

長崎のあと、世界も放浪するんですけど、日本を撮りたい気持ちが強かった。一歩踏み込んだスナップを撮りたかったから、バンド解散後に大阪へ戻ったジョージに相談すれば、色々アテンドしてくれるだろうと。それですぐ連絡したら、5分くらいで折り返しが着て「家、見つかったよ」って。そうして住み始めた大阪での生活が『Tsugi no yoru e』に詰まってるんです。

——『Tsugi no yoru e』っていう意味深なタイトルは?

今日出会った女より、もっといい女が明日はいるよなって。ホントそんな感じで、毎晩遊んでた気がして。あと、ゆらゆら帝国の曲でこのタイトルのがあって。当時すごくよく聴いていたんですよ。

ここからは『Tsugi no yoru e』の意味深な1枚1枚の背景にあるストーリーについて聞いた。

コレは2010年、ワールドカップ。日本対……オランダ? 忘れましたけど、決勝トーナメントで日本が勝った。ワー!となったこの日、道頓堀だ!と思って。道頓堀に飛び込む若者の姿です。よく「これってセットアップ?」って訊かれるけど、いやいや、これぞ大阪名物ですよ。

昔からある「ケントス」っていうライブハウス・レストランの系列があって。そこではご飯を食べられて、かつバンドが生演奏している。で、オヤジとかが踊ってて。たとえばキャロル世代とか。そういうおっさんに混ざって働いていた若いヤツの準備姿ですね。

家の近くを歩いていたら、猫がいた。たまには動物も撮るかと思って。撮ろうとしたら逃げられた。排水溝に。だから手を突っ込んで、パシャッ!と。後日見たら、なにも写ってなかったという1枚。

立ちションですね。ライブが終わって、みんなでライブハウスの前で飲んでて。みんな酔っ払ってて、僕も酔っ払ってて。だから覚えてない。とりあえずいつも地面に這いつくばって撮っていた思い出はあるんです。この視線はものすごく低い位置じゃないと撮れない……別に僕は尺ってないですよ。

コイツはロビン。大阪のアメ村で「FARPLANE」っていうバー兼フェティッシュな服を売ってる店のオーナー。17くらいの時にふと入ったのがコイツの店だった。スケベなものしか売ってないのかと思いきや、鋲のリストバンドとかパンクっぽいものも置いてて。そのなかにシガちゃんが作ったリストバンドとかも売ってた。

初めて会ってから7年近く会ってなかったんですけど、24のとき久しぶりに行ってみたら、店がパワーアップしてて。超でかいエロ屋になってた。バーもあったりして。それからはコイツのバーにほとんど毎日行ってましたね。

「シガちゃん」

 シガちゃんは、日本のパンク界の重要人物。バンドもやったこともなければ、店員でもない。何者でもない。西成に住んでいて、部屋にミシンもない。だけどリストバンドとかズボンとか、リメイクをなんでも作っちゃう。特に鋲ジャンにかけてはこの人が日本で1番うまい。あまりにもDIYがすごすぎて、「LIMI feu」からリストバンドを作ってくれって言われたり。

あるとき、アメ村の三角公園で遊んでたらコイツ(女)がやってきて。もうブッ飛んでて。初めて会うのに、みんなを亀甲縛りし始めた。それで面白いじゃんって、朝まで遊んで。翌朝、東京に帰らなきゃって言うもんだから、大阪駅のホームまで見送りに行きましたよ。この1枚はロビンに撮ってもらいましたね。

オレ、居酒屋でキャッチのバイトをしてたんスよ。道頓堀のグリコの前。ホント、激戦区で。コイツはそこの板前。デブって、だいたい家じゃ裸で。 或る日この店の店長が、キャッチ会社を独立する!とか言い出して。しかも居酒屋だけじゃなく、風俗もやろうと。

そのとき大阪は風俗がすごく厳しかったから無理で、じゃあAVだって。スカウトの講習会やるからって言われて、講習会に誘われて。『AV女優のスカウトの仕方』(笑)。黒板に「女は金だ! 金だ!」って書いてあって。オレ、写真を撮りに大阪来たのに、なにしてんだろ?と我に返って、キャッチは辞めたんですけどね。

これは友達のトモノリ。朝までクラブ行って。これが朝の6時ころ。コイツ、飲むとすげー攻撃的になる。この日も帰りにスケボー投げ出したりして。と思いきや、駅前でバタッと倒れて。3分くらいこのままだった。

清水姉妹っていう、アメ村で有名な姉妹がいて。三角公園から3分のところに2人で住んでる。みんな朝まで三角公園で飲んだら、清水邸に行くのが恒例で。でも清水姉妹には誰も手を出さなかった。スケーターの仲間として、みんなと仲良いっていう姉妹なんです。これは清水邸の玄関。

手のヤケド。しょーもない話なんですけど、ロビンの店で、アルコールをチン毛につけて火をつけるとボッ!となるっていう遊びを見て。オレも!と思って、酔っ払いながら、ボッ!とやった。ホントはとなりで誰かにすぐ水をかけてもらわなきゃいけないところを、1人でやったモンだから自分で鎮火。肝心のチンコは大丈夫だったのに、手のほうが大ヤケドしちゃった。 大阪ってヤブ医者ばっかだから、このキズも全然治らなかった。

これはオレが居候していた家。その家では毎週、誰かが女を連れてきて、毎週誰かが女を弄ってました。なんで最後までやらないのかは分からないけど、なんでかうちではみんな弄ってたんですよね。

yy山谷佑介 公式サイト
http://www.yusukeyamatani.com

 

tsugiyoru『Tsugi no yoru e』2nd edition

Published by YUKA TSURUNO GALLERY,
Tokyo, Japan, 2014
A4 (29.7 x 21 cm / 11.69 x 8.27 inches)
Photographs, design and act by Yusuke Yamatani
Printed & Bound by Heuristic Co. Ltd.
Price: ¥ 2,500

Purchase available at YUKA TSURUNO (Tokyo)

 ground『ground』

Photographs by yusuke yamatani
Designed by yuta nakajima
lemon books 2014
Limited edition of 300 copies
Wrappers cover
92 pages
220 × 260