〈前編〉北京の蟻と鼠は大成を夢見る


今や中国では社会現象として認知される蟻族。その特徴や社会的役割を詳しく知るべく、先述の書籍『蟻族』を出版した廉思に取材を申し込んだところ、あいにくスケジュールの都合で叶わなかった。そこで、北京でキャリアトレーナーを務める老可(ラオ ケ)さんという人物にコンタクトを取った。

キャリアトレーナーとして、社会人に研修を施す老さん。若者に必要なのは、自分の社会的位置づけを的確に定めること。そうすることで、希望の職にも就けるようになると説く。2010年、老さんは『你能行』(訳:あなたはできる)を出版。その第1章では、蟻族についても触れている。

「蟻族の心情を一言で表すなら〝混沌〟が相応しいでしょう。なぜなら、彼らの心では2つの異なる力が対峙し合っているからです。例えば〝不安〟と〝希望〟。彼らは大都会に来て、仕事を探す。しかし自分の将来が一体どうなるのか、そして自分になにができるかが分からない。将来はとても漠然としている。その一方で、希望を抱いているのです。つまり、自分になにができるか分からないけれど、明日は必ず良くなると信じている」

「もうひとつは〝劣等感〟と〝自信〟。大卒直後の生活レベルはとても低い。彼らには、世間がとても豊かに映ることでしょう。それで大きな劣等感を感じるのです。しかしその一方で、将来は自分も中流階級、またはそれより上の階級になれるはずと信じている。不安と希望。劣等感と自信。彼らの心の中では、2つの異なる力が衝突し、激しく波打っているのです」

「蟻族には大きな特徴があります。それは、その誰もがパソコンに熱中していること。みな、インターネットが好きなんです。とりわけ80年代生まれが多い蟻族はデジタルと共に発展してきた年代です。ネットで会話、ネットでテレビ鑑賞、ネットで買い物。これが彼らのライフスタイルなのです」