〈前編〉北京の蟻と鼠は大成を夢見る


学生食堂。この地区には北京大学、北京科技大学、北京林业大学などの施設が建ち並ぶため、学生向け施設が多い

亿展学生公寓を後にし、次なる地へと向おうとした矢先、取材に同行していたオーストラリア人カメラマンに話かけてきた学生がいた。トランスフォーマーのTシャツが印象的な王 強(ワン タオ)さんは、北京市内の某大学に通う4年生。この地に住んで2年が経つ。大学で映画を専攻するだけあって、どうやら同行カメラマンのカメラ機材が気になって話しかけてきたようだ。匿名としての出演を条件に、我々の取材に応じてくれた。

「それこそ大学に入ったばかりの頃は、映画の仕事に就きたいと思っていました。しかし4年になると、学んできた専攻といわゆる映画の仕事に関連性がないことに気づいたんです。僕が映画の仕事に就くのはもはや無理だと思っていますが、それでもメディアや映像の仕事に拘って就職活動をしたいと考えています」

大学で車輌機械を学んだが、最終的にIT関連の職に就いた徐さん。そして専攻した映画の道に進めずにいる王さん。このように修得した専門知識を活かせず、異なる道を進む若者は少なくない。「僕の友人や先輩にもそういう人は多いですね。たとえば国際金融を学んだ友人はいま現在、宅配業をしています。情報システムを学んだ友人は不動産屋で営業をしています。アニメーションを学んだのに露店を切り盛りしている人もいますよ」

「希望の就職先に進める人は少ないのに、大学側はあくまで新卒者の就職率は99%以上だと言います。これがどういうカラクリなのかというと、卒業証書をもらうためには企業の内定書が必要なんです。どんな仕事であれ、職に就かなければ卒業できないのです。それでも職が見つからない学生は、内定書を偽造して提出するほどです。大学側はとにかく就職率だけを追求している」

現在は学生寮で暮らす王さん。例えば50平米の部屋を借りようものなら、月3,000〜5,000元はかかる。それに対し、8人部屋の二段ベッドなら年間2,000元弱で収まる。50平米の部屋1月分にも満たない額で1年もの期間を暮らせるのであれば、という考えから、こうした学生寮を選ぶ人はこの地域に少なくない。「ここの住民の殆どが学生か、社会の最下層の人々。周囲の食堂やスーパーも、ここの住民を対象にしたものばかりです。安い反面、美味しいところはないし、安全な食品を食べることも出来ません」

「ここは、北京で最も食環境が悪い地域です。僕自身、よくリアカーの上に載った大量の下水油を見ていますし、食堂で食べた羊肉や牛肉も名前だけで、その実はネズミやロバの正体不明の肉。中身が分からないまま食べているのが現状です」