〈前編〉北京の蟻と鼠は大成を夢見る


まず我々が訪れたのは、北京北部に位置する海淀区小月河。ここに幾つかの棟に分かれてそびえ立つ「亿展学生公寓」は元々学生向けに設立された学生寮だが、卒業後も居座る若者でごった返している。

亿展学生公寓の中庭に向いた窓は全て居住者たちのシェアルームに繋がる
元々は学生向けの建物だが、館内を子どもが行き交う姿も。学生や新卒者だけでなく、家族も暮らしているのだ

21平方メートルの各部屋は6人部屋、4人部屋、個室と分かれている。6人部屋には二段ベッドが3つ、4人部屋には2つが設置される。さらにベッドの上段か下段を選ぶ。そこまで選んだところでようやく住処が決定する。つまりここでは個室以外、ベッドの上が居住者の敷地だ。賃貸は半年もしくは年間を一家で支払う。下段ベッドの方が上段より割高だ。6人部屋の場合、上ベッドで年間3,000元。一月あたり250元の計算になる。日本円にして約4,350円。

各部屋は窓のついた一面を除いた三面に沿って二段ベッドが設置されている

38度の真夏日を迎えたこの日、涼しげなNBA LAKERSの黄色いユニフォームで身を包みながら、この部屋に設置された二段ベッドの上段でネットサーフィンに勤しむ若者に話を聞いた。

徐 明(ジョ ミン)さん、24歳。陝西省にある重点8大学の1つを今年4月に卒業してすぐ北京にやってきた。大学では車輌機器を学んだが、IT関連に関心があったため、教育関連のエンジニアの職に就いた。「住む環境は故郷の方が良いですね。北京にやってきたのは夢のため。しかし今はお金がないからこの住まいを選びました」と語る。

働き始めて2ヵ月。月の給与は3,000元だ。生活費を差し引いて残るお金は、軽く遊びにでも出掛ければすぐに消えてしまう。そんな時、金のことを気にせず満喫できるのはパソコンだ。話の最中もネットサーフィンの手を止めなかった徐さんにとって、それは日常生活の必需品。「パソコンのおかげで、ニュースを読んだり、SNSをチェックできます。もしこれが無くなれば、途端にやることはなくなり、生活はとても寂しくなるでしょう。情報を得ることができるのは大きいですね」

小さなベッドの上から始まった徐さんの北京生活。野心は大きい。「北京に来て最大の功績は、視野が広がったこと。沢山の人と出会うなかで学んだことは多いです。人の多い北京なだけに、競争は激しいと言えるでしょう。競争が人を進歩させる。それは僕が望む環境です」

筆者が実際に借りたベッドはひと月300元(約5,000円)。親切にも掛け布団や枕、竹ござが備え付けだ
ひとたび横たわれば、ベッド上は身ひとつで埋まってしまう。まさしく生きるのに最低限のスペース
ベッド上段の居住者には、ベッドと天井のあいだにハンモック風の収納スペースを生み出すという一工夫を見せる者も
トイレにはシャワーが併置されている。写真中央のバケツには服が水に浸かっていることから、洗濯用だと思われる