大橋 仁、人類の明るい繁栄のため全財産をはたいて酒池肉林を撮り収める。


——……別にムリして〝解剖学〟からホラーファンタジー作ってもらわなくても大丈夫です。

いやいや、マジなんだって。だからさ、智玄が自分の娘を切り裂いちゃったような部分がオレにも宿ってるのかなって。でもそれは、ただ破壊したいんじゃなくて。知識であったり、建設的な学びに結びつく歓び。もちろん殺人犯罪なんて言語道断で有り得ないだけど、自分でも不思議で仕方ないのよ。このガマンし切れない〝知りたい欲求〟はどこからくるんだと。

それで妙な伝説なんかをガキの頃に流し込まれたりなんかしちゃうと、なんか繋げちゃうときもあるんだよね。しかもそれが実話だとしたら、日本初の生体解剖ってことなる。700年も前のことだから文献も残ってないんだけど。相当、昔にそんなことをしてくれちゃった野郎がいた。それをふと思い出すことはあるね。

写真集『そこにすわろうとおもう』より

——予想外のホラーな話でなんだか薄ら寒くなっちゃったんで、そろそろホットな最新作の話をしましょう。写真集『そこにすわろうとおもう』について。VICE Japanの再スタートを祝ってもらうとき、大橋さんからも作品をメールで頂いたじゃないですか。あれも今作の1枚なんですよね? あんまりにも浮世離れしてたから「随分凝ったスパムだなぁ」って勘違いしちゃいましたよ。一体全体、なんなんですか?

大規模な性行為に関しては、実は3年前に撮っててさ。8月と11月に分けて、計3回。8月で300人をスタジオで。残り2回は約80人ずつを11月に、洞窟や砂場で撮影した。全て、計画的に撮ったよ。 それで、人を集めてくれたのがカンパニー松尾さん。15年くらい前のV&R時代から、松尾さんとは知り合いでね。今回、自分の撮りたい欲求、知りたい欲求が高まったとき、手伝ってくれるのは誰だと。それで松尾さんだった。

だけど彼の周りはもちろんプロだから、ギャランティが発生してしまう。しかも予算は全部、自分のポケットマネー。それでまず漠然と、500人の性行為を考えてたんだわ。そしたら、ソフトオンデマンドで『人類史上初!!超ヤリまくり!イキまくり!500人SEX!!』ってのが出てて。ウワー、先にやってるよ!って。

——いわゆる企画系だ。

そうそう。でもそれは整然とした性行為だった。オレは闇で500人を肉団子にしようと思ってたから、やりたい方向性はまるで違ったの。でもノウハウを彼らはすでに持ってるワケじゃない? じゃあその予算感が一体どれくらいなのか、聞きに行こうって。松尾さんが連れてってくれたの。 で、あちらから「今回はどこがやりたいんだ?」って訊かれて。「オレ1人です」と。「えっ?」みたいな。「アンタが? 1人でやりたいの? へ~~」みたいな。そこでようやく〝コイツは敵じゃねえ! しかも1人でやりたがってる! バカだ!〟と暖かい目になってくれて。包み隠さず教えてくれた。

——ウホッ! それでそれで?

でも最終的に、500人はムリだったの。頑張って頑張って300人がギリだった。それこそ注ぎ込んだ金なんて、都内で小さな家とか買えるレベルよ。ずっとコツコツ貯めてきた金すべてを注ぎ込んだワケ。それが、あれなの。松尾さんも、オレが自腹って話をしたとき、彼は瞬間的に規模が分かるからさ。300人って言ったら、「大橋くん、アレだ。ゼロになりたいんだ。ゼロになりたいのね」って(笑)。「いや~、ゼロになりたいワケじゃないんですけど、ならないとやっぱ出来ないですかねぇ……」みたいな。