私の記憶


2015年12月16日(水)

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この10年間、よく夢に見る景色がある。

1階には2台のエレベーター。ぼくはそのどちらかに乗り込み、2階のボタンを押す。無事に2階で降りられることもあるが、そのまま止まらず、上まで昇っていってしまうことも。無事、2階に降りられたときは、降りてすぐを右に曲がると、ずっとずっと奥まで長い廊下がつづく。

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廊下の先を進み、いくつかの部屋を過ぎると、左側の或るドアに手をかける。

そこまで来てようやく「ああ、ここからはもう引っ越したんだっけ」と思い出すが、都合良く「ここはこれからも使えるはず」と思い直し、秘密基地でも手に入れた子どもよろしく胸を躍らせる。

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東に向かって並んだふたつの部屋は一面が掃き出し窓になっており、日差しがよく入る。ガラガラガラという懐かしい響きと共に窓を開けば、眼前に広がる木々の隙間からカアカアと啼くカラス。

だれもいないその部屋に辿り着くことを目的とするか、あるいはうちに帰ってきたはずが、なぜかこの旧家にたどり着き、また別の道を歩かなければならないことに辟易する、といった夢。その場合、なぜかぼくの大切なものはこの部屋で、重なり合った段ボールに収納されながら置かれている。

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当時の家から出るとまず初めに目に入る景色は、いまも変わっていなかった

そこは「戸山ハイツ」と呼ばれる、古くは終戦後のGHQ統治時代に遡り、戦後初の大規模都営住宅として名を馳せた巨大団地の一角だ。そして夢のなかで辿り着いた部屋はほかでもない、ぼくがかつて親子で暮らした戸山ハイツ33号棟の215号室。1980年代初期から2000年近くまで暮らした。

正直、あまりいい思い出がないとばかり思っていたけれど、いざ離れてみて、この地がいかに大切なものであったかを噛み締めている。まさか、たびたび夢に見るほどとは。

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その後は両親の仕事の都合もあり、近所を転々としてきたが、この団地だけは格別の記憶となって脳裏に焼きついている。

いま振り返ると、あまり裕福な暮らしはしていなかった。どちらかといったら、その後の生活のほうがまだ暮らしは落ち着いていた。

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かつて家族と暮らした215号室

生活は苦しくても、家族4人でコタツを囲み、大笑いをしながら過ごした日々は特別だ。子ども時代の鬱々とした日々でさえ、あれがあっていまの自分があると思えば、こみ上がるものがある。ひとつひとつのエピソードが音声と共にありありと蘇る。

兄と2人で過ごした三畳の部屋、幼いころ、寝つけずにいると天井に差し込む外からの光。とうてい手の届かない高さにある欄間。

先日、ふいにぼくを包み込んでくれた祖父の面影を追っていくうち、今日、数年ぶりにこの地を訪れていた。本当の用事は別にあったのだけれど、12月らしくない朗らかな陽気に誘われ、父の電動自転車にまたがって。

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ここ戸山は新宿区のなかでも稀なほど、自然環境の整ったエリアだ。山手線内最高峰とされる箱根山を擁し、団地と団地のあいだを埋め尽くす木々のおかげで、四季折々の表情を持つ。

保育園、小学校、中学校、高校。このすべてを、ぼくはこの戸山で一貫して過ごしてきた。それこそ保育園を除いたら、残りすべての冠に〝戸山〟とつくほどだ。ようするに、18歳までのぼくを形成した大地はここにあった。

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自転車にまたがりながら過ぎ去る場面のひとつひとつは、ぼくにとってあまりにも大切なパーツなのに、こぐ速さで目まぐるしく先へ先へと進むわけだから、途中からの景色はまるで走馬燈。この数年、目を閉じては噛み締めていたかつての景色がまさにいま眼前に広がるという事実をなかなか受け入れられずにいた。

少し前までは、いつかまたこの地に戻ってきたいと思っていた。しかし今日、改めて訪れ、もう戻ってきてはいけない場所なのだと思い返す。なぜなら、ぼくの故郷はぼくのことを異物として捉え、容易には受け入れてはくれないように感じられたからだ。ぼくはもう、ここで育ったぼくではなくなっていた。

大親友が暮らした団地もいまは更地になっていた

大親友が暮らした団地もいまは更地になっていた

ぼくにとっての 居心地よさでいったら最上級の環境はきっと、ここなのだろう。しかしそれは手放したからこそ感じられるものであって、万が一そこに戻るとしても、それはいまじゃないはず。

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「今日あそぼうぜ」「なにして遊ぶんだよ」

ちょうど下校途中の小学生が通学路を占領していた。ランドセルに上着をはさみ、手には枝を持って。なんだ、20年前となにも変わらないじゃないか。

変わったこともたくさんあるだろうけれど、変わらないものもたくさん確かめられた。

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1時間ほど方々を駆け巡ったのち、隣接地域の都営住宅で暮らす祖母の下へ。

実家を訪れた際には祖母の顔も確かめることにしている。訪ねると、待ってましたとばかりの満面の笑顔。そしてついでだからと、祖父なきいま、昔のことを知る祖母から昔の話に耳を傾けた。すると、あっという間に陽は落ち始め、話半ばに慌てて飛び出す。

祖母の話については、またいずれそのうちに。

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2006年に撮った祖父

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2015年のいま、祖母を同じ場所で。すぐ隣りではガラス張りの超高層マンションが建設中

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2006年

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現在

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