東北の森で野ジカを追い、その暗がりに太古日本のクオリアを見出す


『KURAGARI』の様々な解釈

ところで英語には〝deer in the headlights(ヘッドライトに照らされたシカ)〟という慣用句がある。シカという動物はずいぶん臆病な生き物らしく、突然驚かされると硬直してしまうらしい。その様子から、この言葉には「立ちすくむ」「凍りつく」といった意味がついた。

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この解釈に従えば、田附さんの『KURAGARI』は〝deer in the headlights〟そのものだ。シカは光を照らされても堂々と仁王立ちしているわけではなく、むしろ差し込む光に驚いて腰を抜かし硬直するという有り様。そんな臆病な動物を、日本人はなにを勘違いしているのか——。

『KURAGARI』を記号として見るなら、それもひとつの解釈だろう。しかし我々日本人が『KURAGARI』を通して感ずべきことは他にあるはず。それこそ闇夜のシカが古来より伝わる神鹿信仰を想起させるのはもちろんのこと、その鋭い眼光は東北地方に伝わる荒覇吐(あらはばき)神さながらの畏怖に満ちた神々しさがある。