東北の森で野ジカを追い、その暗がりに太古日本のクオリアを見出す


闇森に潜むシカとの出会い

それにしてもなぜ、暗がりのシカを撮ろうと思ったのか? この疑問を解消するには、闇森のシカと田附さんの出会いについて触れる必要があるだろう。

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2006年7月から2011年4月まで、田附さんは東北地方の生活や習慣、儀式、文化を写真に写した。それらが写真集として編まれたのが、木村伊兵衛写真賞受賞作品『東北』である。このとき訪れたうちのひとつ、釜石市では、白浜さんという猟師の家に撮影期間中を居候した。

ある晩のこと、いつものように白浜さんの家を拠点に撮影しようと思っていると、

「田附さんは夜のシカ、見たことあるか!」

突然、白浜さんにそう尋ねられたそうだ。まるで想像もしなかったその提案に田附さんが乗っかり、2人は夜の森へとジープを走らせた。