真鍋大度は電気パルスで表情をコピーする


Interview and text by Tomo Kosuga

いくつもの電気パルスを顔につけ、自家製のテクノ・サントラに合わせて自分の表情をありえないスピードとありえない口と眉毛の動きで動かしまくる真鍋大度は日本のアーティスト。 世界中であまりにも反響が大きかったせいで、なんと寄生虫のようなハリウッドの広告代理店が彼のアイデアをパクり、全国規模で放映されるミルクチョコレートのCMを作ってしまうという現象まで起きた。これは本当にサイテーだ!(平和主義の彼は「必ずしもパクったワケじゃないと思うよ」と否定しているが、神に誓って絶対そうに決まってる)。

どちらにせよ、今や有名人の彼。今回じかに会い、一見普通の男子がどうして自分の顔を痛めつけているのか(単に退屈だったってだけじゃない)、そして電流アートの今後について訊いてみた。

——映像『electricstimulustoface』が生まれたきっかけはどんなものだったんですか?

真鍋大度:表情のコピーが出来たらキモチワルイんじゃないかと思ったのがきっかけでしたね。バイオ・アート・デバイス開発の第一人者である照岡正樹さんが「笑顔は感情が伴わないと作れない」と言っていたんです。でももしかしたら電気でもちゃんとした笑顔は作れるんじゃないのかと思ってやってみた。

もちろん笑顔はうまく作れず、技術的にコピーマシンは作れないとすぐに分かるんですが、テーマとしては面白い。だからパフォーマンスとしてチャレンジしてみて、失敗も含めて作品にしようと考えました。この動画自体は表情のコピーの実験過程で生まれたモノなんです。笑いや怒りといった表情をベースにシーケンスを組みました。

それから、ステラークというアーティストからの影響も大きかったですね。 ネットを介して自分のカラダを動かす「PINGBODY」という彼のパフォーマンスにインスパイアを受けています。

——僕がこの動画を見た時に思い出したのは、カエルの筋電実験でした。電気を流すコトによって死んだカエルの筋肉がビクッと反応するヤツ。

そうですね、顔に電気を流して表情を作る実験自体は1850年代から行われています。だから僕は“新しいテクノロジーを作っている人間”ではないんです。こないだニューヨークで行われた「ドークボット」という電気系の集まりでも僕の映像が流されたんですが、その時のイベントのタイトルは「You’reDoingIt Wrong:CreativeMisuseofTechnology」というモノでした。“新しい”というよりは“間違っている”と言った方がシックリきますね。

任天堂のゲームボーイを開発した横井軍平さんは、テクノロジーを面白い発想で利用していました。彼は“枯れた技術の水平思考”という哲学を残していますが、それは使い古された技術を今までなかった使い道で再活用するというモノでした。

例えば昔のファミコンでコントロールするロボット『ジャイロ』などがイイ例です。アレは単純にコントローラーで動かすロボットではありませんでした。ロボットの目に光センサーが埋め込まれていて、コントローラーのボタンを押すとテレビ画面がパチパチバチとグリーンに光る。そのパターンをロボットの光センサーが認識して動き出すんです。 彼はテレビの画面をコントローラーとして使ったんですね。そこが面白かった。

そういう風に、本来のテクノロジーとはちがった使い道を考えるのが、僕の目指すところですね。

——動画『electricstimulustoface』をYouTubeにアップしようと思ったのは、どういうきっかけからだったんですか?

NHK主催の「デジタルアートフェスティバル」というイベントでパフォーマンスを依頼されていたんですね。でも当日僕は他の仕事で行けなかったので、代理として友達に出てもらうことにしたんです。その友人にどんなパフォーマンスなのかを事前に確認してもらうためにあの動画を撮影してYouTubeにアップしたんです。それをどうもギーク系ブログが取り上げてくれたみたいで。それで急に火が付いて、いつの間にか多くの人から見てもらえるようになっていました。知り合いのアーティストの友人や身近の人たちがネットで紹介してくれたのも大きかったと思います。

——普通なら作品の制作過程はクローズドな空間で確認し合うのが一般的とされるのに、真鍋さんはオープンな場で公開したんですね。それはどうしてですか?

プログラマーの人たちには「オープンにしてみんなでシェアしよう」という考えがあって、僕はその恩恵をスゴく受けているんですね。僕が実際に使っているアプリにもフリーのモノが多いですし。 「アイディアを考えてそれを実際にカタチにして、最後にシェアする。そこまでやらないとダメだよね」と言っている人たちがいるんですが、確かにやりっ放しじゃ勿体ないとは僕も思います。それに、僕らだけタダで色々使わせてもらっているのは申し訳ないですからね。僕らがワークショップをやるのだって、若い世代にシェアするというのが目的の1つなんです。

——YouTubeにアップされている真鍋さんの動画の説明やタイトルにはよく「test」というワードが入っています。試作版ということなんでしょうが、なぜテストをわざわざ公開するんですか?

テストと書いているのは、作品と呼ぶに至っていないモノだからですね。YouTube上にアップしているのは基本的に制作過程のモノが多くて、“完成してないけど面白いかも”と思えた時に記録としてその都度アップしています。 少し前までは、この手の実験を誰かに見せようと思っても、例えばDVDに焼いてそれを発送しなければならなかった。けれど、YouTubeが登場したおかげでそうした一連の作業を必要としなくなったんです。僕らのような末端で色々遊んでいるギークにとっては、それによってチャンスがとても増えたと思いますね。

——音と手足が同期する映像『myoelectricsensor』の話をしましょう。これは『electricstimulustoface』とどう違うんですか?

アレはセンサーを使って、筋肉に流れる微弱電流を音に置換しているんです。だからコレは『electricstimulustoface』と真逆のシステムなんですよ。元々ダンサーとの作品作りの際に使ったモノで、“超ミニマルなダンスを作る”というのが当初の目的でした。それじゃあ体内の筋肉だけを動かそうという話になって。 でもそれでは端から見たらなにが起きているか分からないし伝わらない。そこで照岡さんに「センサーをつければ筋肉の動きを記録出来ますか?」と相談したら、「出来ます」と。元々は動かないというところから始まったけど、さすがにそれではダンスが成立しないので少しずつ動きをつけていって。

electric stimulus to face: test3』より

それを使えば、例えば即興のダンサーにその場限りの踊りにシンクロしたバックサウンドをつけられるってことですよね? 例えば全身にセンサーをつけたら、ダンサーは全ての動きを音へと置換できるんでしょうか。

理論で考えるとそうなんですけど、実際にやってみると、イイ音楽を動きで作るのは難しいんです。踊りの振り付けの美しさを表現するのと、イイ音を出すというのはちがった原理ですからね。

例えばミュージシャンにセンサーをつけてもらえれば音楽的なアプローチでイイ音を出そうとしてもらえるけれど、ダンサーはまず振り付けの美を優先に考える。それが果たして音楽的に素晴らしいかと言ったらそうではないんですね。 それにセンサーの数を増やせば増やすだけ複雑になっていって、音を作るのが難しいんです。リズムやメロディ、ハーモニー、それからエフェクトを1つぐらいの範囲であれば自分でもプログラムを把握できますが、いざセンサーが20コほどになってくると非常にややこしい。

僕はむしろ、ゲームのコマンドを設計するように、少ないセンサーで数多くのパターンを作る方を選択しました。逆に映像の場合はセンサーが多くても面白い絵にするのはカンタンなんですけどね。また、それをやってみた時に、複雑になりすぎて音とカラダの関連性が伝わらないんじゃないかという疑問もあります。

——YouTubeのコメントに「ビョークが会いたがっているよ」と書かれていましたけど、彼女から実際に連絡は?

ビョークが在籍するUNIVERSALMUSICから連絡はありましたね。でもそれはビョークからの依頼ではなく、他のアーティストでした。電気に限らず何かPVを作ってほしいといった要望でしょうか。まだ何も始まっていません。ビョークからコンタクトが来たらそれほど光栄なことはありませんけどね。

でも僕は、どちらかというとPerfumeに電極をつけたかった!彼女たちの映像チームが来たことがあって、その時にこの動画も見せましたが、「いやあ、コレはダメだなあ」と言われてしまいました。“ゼッタイにこの人たちやらないでしょ”みたいな人にやってもらった方が面白いと思うんですよね。

それにPerfumeだったら、観てくれるオーディエンスもガラッと変わると思うんですよ。全然知らない人たちが見てくれるハズだから、新鮮に受け止めてもらえそう。またそこでちがう解釈で盛り上がったりとか。僕は基本的に誰かとコラボレートするのが好きなんで、センサーでも低周波パルスでも、興味を持ってくれた人は是非連絡して下さい!

——このパフォーマンスをマネしている海外のCMがあるみたいです。そういうのはどう思います?

ああ、ありましたね〜!お菓子のCMでコドモ2人が座って顔を色々動かしているヤツ。アレが出てきた時は色んな人から心配のメールをもらいました。中にはロンドンの代理店からもメールが届いて、「一緒にやったのか?」と書かれていました。でも実際にはなにも関与していません。

だからパクられたと言えばパクられたのかもしれませんが、アレはアレでちがった解釈とちがったコンセプトの下でやっただけのことだと僕は解釈しています。なので僕自身はなんとも思っていませんね。ただ、あのCMが出た後に色んな人が自分たちのブログでこのCMの動画と僕のを比較した記事を書いてくれたので、それによってさらに宣伝してもらえて良かったなと思っているくらいです。

——今後の展望は?

今やってみたいと思っているアイディアが3つ程あります。そのうちの1つが、強力なパルス磁場を使って脳を刺激するTMS(Transcranialmagnetic stimulation)を使ったパフォーマンス。コレでなにか新しいことをやってみたいんですけど、イジる場所が脳なだけにキケンだし、そんなライセンスも無いし……と一歩進めないでいました。

だけど、ニューヨークへ行った時に打ち合わせで会ったフィラデルフィアのサイエンスミュージアムの人たちにこのことを話したら「ああ、僕たちもちょうどそれに興味を持っていたんだよね」と言われて。それでやってみようかという話になったんです。まだ作品になるかどうか分からないし、まだまだ壁が多くありますが、自分の限界を超える表現ができるかもしれないので是非挑戦してみたいですね。