9月1日、16時30分。丸の内線経由で東京駅に降り立つ。
地下の直結通路から丸ビルのエレベーターに乗り込む。約束の時刻より、
アフリカの紛争地帯を7年にわたって写した『AFRIKA WAR JOURNAL』刊行から2年。写真家、亀山 亮さんが新たな個展を開催する。この展示内容について話を聞かせてもらうため、わざわざ東京駅まで来てもらった。涼しげな演出がされたテラスに辿り着くとすぐに、亀山さんは謙遜に近いことばをいくつか続けたが、
亀山さんの荷物が多いことも考慮し、周囲の店にも入らず、このままテラスで落ち着くことに。 たしかにずいぶん重装備の様子。剣道の竹刀袋も持っていたりと、
「なんだかすごい量の荷物ですね」と尋ねると、「
この数分前、亀山さんは東京に着いたばかりだった。

『Day of Storm』——〝嵐の日〟と題された今作。
亀山さんはこの7年間、八丈島で暮らしている。八丈島は、

「17歳の時、初めて(八丈)島まで遊びに行ってさ。そのとき、
「17っていったら思春期じゃん? 社会の中で、うまくやれてなかった。その彼も、
1人の男との出会いから身近な存在になっていった島は、

「戦争のときは、撮るぞ!って意気込みでいくけど、(島での)
実際、今作『Day of Storm』は、亀山さんの眼に映った情景の数々である。
前半は、八丈島末吉地区で毎年8月15日に開催される盆踊りでの〝
後半では一転し、亀山さんが〝

とは言え、極私的なスナップショットがつづくわけだから、解釈するうえでなにか頼るものが欲しい。そこで役立つのが、写真のひとつひとつに添えられたキャプションだ。たとえば八丈島の盆踊り。次第にテンポ早くなっていくリズムに合わせて踊り狂う人々が、これでもかと映し出される。
そのキャプションには「2日間、老若男女が櫓(やぐら)

読み込んでいくと、或る2枚の写真に添えられたキャプションに目が留まった。
幾人かの女子たちがマイムマイムの輪になりながら、

「ハレ」と「ケ」。「ハレ」とは「晴れ」であり、
また「ケ」

この「ハレ」と「ケ」を頼りに、亀山さんが綴る「嵐の日」を振り返ろう。
前半に展開される「盆踊り」は明らかに「ハレ」だ。
その合間に挟まれるのは、「ハレ」と「ケ」のどちらにも属さない2枚の写真。1枚には、山を背景にした空き地に舞う、ふたつのゴミ袋が映し出され、そのキャプションは「身辺整理したものをゴミ捨て場に投げ捨てた彼は、数日後自ら命を絶った」。もう1枚は大きくブレた暗がりの山道。キャプションは「車で山道を猛スピードで駆け抜ける」——。

この印象的な2枚は、もしかすると「ケガレ」と言えるかもしれない。
ケガレ、気枯れ、穢れ。それは日常生活でも蓄積されていくが、死や病によって決定的なものとなる。友人の死によって「ケガレ」を抱えた亀山さんが、ほとばしる感情に身を任せ、暴走する。
友の死の未練を乗り越える——。そうして見ると、二枚目のブレた木漏れ日は〝振りまかれた「清めの塩」〟のようにも見えるし、一枚目のゴミを投げ捨てるさまは〝塩を振りまく〟ようにも見える。

そこまで話すと、亀山さんが応答してくれた。「(これまで自分が被写体にしてきた)戦争の究極は〝死〟でしょ? 僕は死に興味がある。僕の友達は、島で死んだ。僕の父も、会社でのストレスが原因で、
「僕の連れが、精神障害の施設で働いていてね。精神障害という括りもおかしい感じだけど、彼らとよく付き合うようになって思ったのが、自分がそれまで撮り続けていたアフリカのPTSDを抱える人たちの姿と変わらないってことだった。社会に適合する、しない。それは社会が決めていること。そういうのも含めて、分かる人には分かるけど、分からない人には分からないっていう写真の良さに委ねることにしたんだよ」

亀山さんが続ける。「僕は死に興味がある。いくら金持ちでも、死んだら終わり。たまたま僕がやってきたことが戦争だったこともあって、常に現場が死に近かったこともあって、死について色々考える。たまたま僕の周りも、途中で死んでしまう人たちもいた。人間の狂気、戦争の狂気。〝普通〟と〝普通じゃない〟の違いもよく分からない。そういうことを等しく出してみたかった」
亀山亮、『Day of Storm』。これは〝戦場写真家による私写真〟のようでいて、そうではなさそうだ。戦争を駆け巡り、向き合ってきた死への尽きない問い。これが『Day of Storm』においても繰り返されるという点において、亀山さんにとってはこれもまた戦場写真なのかもしれない。

命を枯らすまで自己存在の理由が問われる現代日本。右へ倣えのムラ社会は今なお国家において健在であり、単一民族の我々がそのなかにおいて生存と繁栄を継続するためには、ケとハレの循環、そのなかにおけるケガレの浄化作用が不可欠だ。それは列島を離れた島においても同じこと。そればかりか、島においてこそむしろ健在であることを、亀山さんは問いかける。
Day of Storm、嵐の日——。亀山さんが写真の先に見つめるものはアフリカでも八丈島でも変わらなかった。生と死の境における、命のふとした気まぐれさ。命のテンションは時に、ふとしたことがきっかけとなって緩み、そして時には途切れる。その弾ける瞬間に対する、正直な疑問。

〝ハレ〟であり〝夜中〟の高速マイムマイムからは生命の狂気的な瑞々しさがこれでもかと劇的に映し出され、しかし〝ケ〟であり〝昼〟の八丈島では一転して、狂気的な死の香りが漂う。理屈や思考を超えた、コントロール不可能な生命のもどかしさ。
これから先、この男は冷たくも優しい眼でそれらを見つめ続けていくのだろう。たしかにそれこそ、写真でこそ映し出せる〝見えないなにか〟であり、写真家が見つめる写真の先にあるもののひとつ。そしてそれは、写真行為にこそ成し得る問題提起でもあるに違いない。
——クアアイナで買ったビールも手伝って、たがいに緊張もとけ、与太話になったところで取材終了。膨大すぎる荷物をふたたび背負った亀山さんは沖縄での釣りをただただ楽しみにしているらしく、竹刀袋に入った銛を強く握りしめ、「がんばってね!」と言い残し、すばやく去って行った。■
亀山 亮さんの個展『Day of Storm』が本日、9月6日(土)より金沢のギャラリー「SLANT」にて開催。本日19時より亀山さんによるトークショーも。また同日より富山県にて写真家・田附勝さんとの2人展『亀山の眼 田附の眼』も開催しています。
亀山亮 写真展「DAY OF STORM」
2014年09月06日(土)ー 2014年09月28日(日)
会場:SLAN / 入場無料
http://www.slant.jp/
亀山 亮トークショー
『戦場カメラマンが見た パレスチナ、アフリカ』
日時:2014年9月6日(土)
18:30開場 19:00開演(約1時間)
会場:金沢21世紀美術館地下「シアター21」
石川県金沢市広坂1-2-1
入場料:500円
WEBSITE
田附勝・亀山亮二人展
「亀山の眼 田附の眼
みえるものとみえないものとの境界」
2014年09月06日(土) – 2014年11月09日(日)
ミュゼふくおかカメラ館
〒 939-0117 富山県 高岡市 福岡町福岡新559番地
TEL: 0766-64-0550
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