原発20キロ圏内に生きる男


彼にとって、ここでの暮らしとその月日がどれだけのものであったかは、とうてい計り知れない。「放射能だって慣れる。見えねえもん。5、6年後には病気でっかもしんねえって思ったけど。一時帰宅する人も、あんまり気になんなくなる。俺だけでねえって。あんたらだってここに3回、5回と足を運んでみ? 気になんねえって。ただ、ガイガーカウンターの針は動くよ。それを持ってれば、気になっかもしんねえ。だから持って歩かねえ。あっても使わない」。以前は所有していたガイガーカウンターだが、それもとうに故障してしまったという。


(左)原発事故から1年半をなんと牛舎に幽閉され続け、餓死した牛の屍肉を喰らうことで生き延びてきた犬。2012年の夏、松村さんによって救助された。体毛の大半は抜け落ちていたが、献身的な世話により回復。その経緯から〝キセキ〟と名付けられた。(右)それから約2ヵ月後のキセキ。毛も戻り、犬らしい姿に

自宅周辺の放射線量は毎時2マイクロ・シーベルト。年換算で17.5ミリ・シーベルトだ。牧場付近の1/3以下だが、一般人の被ばく許容基準が年間1ミリ・シーベルトであることを踏まえると、高い数値であることに変わりはない。このことについて、京都大学原子炉実験所の小出裕章(こいで ひろあき)助教に訊いた。

「日本の法律、それは米国でもドイツでもそうですが、1時間あたり0.6マイクロ・シーベルトを超える場所は放射線管理区域に指定し、一般人は入ってはいけないはず。放射線管理区域に入ったら最後、水を飲むこともできない。物を食べることも、本当はしてはいけない。そんな場所に普通の方が生活しているというのは、私から見れば想像を絶することです」